top of page

松本慎一個展「すべてのあなたの記憶」

2024年9月7日〜9月29日9月7日18時〜オープニングレセプション13:00〜20:00(月.火.水休廊)




 ひとが生に苦しんでいるとき、美しい記憶を手渡して慰めることができたらと考えたことがありました。脳から記憶を取り出すことはできませんが、日常的に写真を撮り続けている私は、記憶を写真というかたちにして差し出すことで、それに近いことができるのではないかと思いました。ただ写真と言っても、紙に印刷したものがあり、電子端末に画像として表示されるものもあります。記憶として手渡す際、最も相応しい写真の形態とはどんなものでしょうか。

 デジタルカメラは、ひとの身体と仕組みがよく似ています。眼球(レンズ)を通った光を網膜(センサー)で受け、電気信号に変えて脳細胞(記録メディア)に送り、画像として記録する。フィルムカメラは少し違って、レンズを通った光は、センサーを介さず、電気信号にも変換されず、直接フィルムに焼き付けられます。フィルムは、光を受けるためにつくられたいくつもの網膜であり、受けた光を記録し続ける脳細胞でもあります。そして、その瞬間の光を直に受けたフィルムはたったひとつであり、複製することはできません。私はこのフィルムこそ、手渡すことのできる物体として、記憶に最も近いと考えました。

 今回の展示では、紙の枠(マウント)に収めたリバーサルフィルムをご覧いただけるほか、記憶が再生される感覚を表すためスライドプロジェクターでの画像投影も行っています。また、時間が経過することによって朧になってゆく記憶のイメージとして水彩画用紙へのプリントも用意いたしました。私という存在を感じたあなたの中に私が生まれるように、私が手渡した記憶があなたの記憶としてふたたび生まれることを願っています。

松本慎一



1976年静岡県生まれ。中央大学法学部在学中に写真を撮りはじめ、卒業後、映像制作会社に就職。ディレクター業に携わるかたわら「トナカイ」名義で活動する。2021年撮影業で独立。身のまわりにある光、草木や人の肖像を撮影し続けている。

bottom of page